「遺伝する乳がんや卵巣がんがあるの?」
がん細胞そのものは、親から子へ伝わることはありません。また、多くのがんは、遺伝する病気ではありません。しかし、親から子に遺伝することのある「遺伝性のがん」があることも事実です。遺伝性の乳がん・卵巣がんには、それに合った適切な医療があります。
■ 乳がんについて
日本では、1年間に約4.7万人の女性が新たに乳がんと診断されています1)。また、日本女性の部位別がん有病者数の第1位は、乳がんです。最近の医学や医療の発展によって、マンモグラフィーなどを使用して乳がんを初期の段階で発見し、早い時期に治療が開始できるようになりました。早期発見・早期治療することで、救命のみならず、温存手術や美容形成など、人生・生活の質(QOL)を保つことも可能になっています。他方、検診の受診率が低いことや、進行性乳がんへのより有効な治療などの課題もあります。
■ 乳がんと遺伝要因
乳がんも他のがんと同じように環境要因と遺伝要因の「かけ算」の結果で発症すると考えることができます。乳がんの遺伝要因は、いわば、乳がんになりやすい体質で、顔かたちが似るように親から子へと、性別に関係なく―母から娘へだけでなく、父からも、あるいは息子へも―遺伝することがあります。
乳がんでは、乳がんや卵巣がんの家族歴が見られるケースがあることがよく知られています。これは、遺伝要因―乳がんになりやすい体質を共有していることがあるためです。母親や姉妹が乳がんになった方は、そうでない一般の方と比べて2~4倍乳がんになるリスクが高いと言われています。
乳がんのうち5~10%は、強い遺伝要因が影響して発症していると推測されています2)。そのような中には、遺伝要因を遺伝子レベルで特定できるものがあることが分かってきました。
■ 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群とは?
乳がんや卵巣がんの遺伝要因としてBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子が知られています。BRCA1遺伝子もしくはBRCA2遺伝子に生まれながら病的変異を持つと分かったとき― つまり、乳がんや卵巣がんの発症の原因として遺伝要因が明らかになったとき、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」と診断されます。BRCA1/2遺伝子の病的変異は、ご家族(血縁者)で共有されることがあるため、ご家族(血縁者)の複数が、乳がんや卵巣がんを発症することがあります。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群では、遺伝要因が関係していない一般的な乳がんや卵巣がんと比較して、次のような特徴が見られることがあります3)。
(1)若い年齢で乳がんを発症する
(2)両方の乳房に転移ではなく、独立して乳がんが発症する
(3)2世代以上にわたって乳がんの発症者がいる
(4)卵巣がんの発症者がいる
(5)乳がんと卵巣がんの両方を発症する
(6)男性の血縁者に乳がん発症者がいる
■ 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群ではどのような治療をするの?
遺伝要因が関係している乳がんや卵巣がんも、一般的な乳がんや卵巣がんと基本的には同じで、早期発見・早期治療が有効です。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群では、若いうちに乳がんを発症する、乳がん発症後にもう一度別の乳がんが発症する、乳がんだけでなく卵巣がんも発症する、などの可能性が知られているので、それに合った適切な検診が勧められます。さらに海外では、BRCA1/2遺伝子検査によって遺伝性乳がん・卵巣がんと診断された場合には、術式の選択(乳房温存療法ではなく乳房切除術)や予防的な卵巣卵管摘出術(卵巣がんのリスク低減手術)が選択肢として提示されます。また、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群では、ご家族(血縁者)で遺伝情報を共有することがあるため、乳がんや卵巣がんを発症していない人でも、その可能性のある人は若いうちから定期的な検診や検査をうけることが重要です。
このような遺伝性乳がん・卵巣がんの特徴に合った治療や検診について、NCCN (National Comprehensive Cancer Network) の臨床ガイドラインでは、「遺伝的要因/家族歴を有する高リスク乳がん・卵巣がん症候群」の中にまとめられています。
日本においても、遺伝性の乳がん・卵巣がんに対する取り組み―個別化した医療の実施や遺伝カウンセリング、BRCA1/2遺伝子検査が広がっています。
参考文献:
1) 国立がん研究センターがん対策情報センター「全国がん罹患モニタリング集計 2005年罹患数・率報告」(2010年3月)
2) 野口 眞三郎:日本人家族性乳がんの遺伝子診断とマネージメント
家族性腫瘍 第8巻 第2号 2008年
3) Katherine Schneider :COUNSELING ABOUT CANCER Strategies for Genetic Counseling Second Edition WILEY-LISS, p.82,2002
4) National Comprehensive Cancer Network:NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology Genetic/Familial High-risk Assessment: Breast and Ovarian V.I.2010






